日本の職場には、就業規則や契約書には書かれていない習慣があります。あいさつの言い方、仕事の進み具合の伝え方、名刺の受け取り方、会議の前の相談などです。知らなくても仕事はできますが、知っておくと、まわりの人とのやりとりがずっと楽になります。
一方で、労働時間や休暇、ハラスメントのように、法律で決まっているルールもあります。「職場の習慣」と「法律のルール」を分けて知っておくと、合わせるべきところと、断ってよいところの区別がつきます。
この記事では、次の内容をまとめました。
- あいさつと時間の感覚
- 報連相(ほうれんそう)
- 名刺交換と席次(せきじ)
- 言葉づかいと、遠回しな言い方
- 根回しと稟議
- 労働時間・残業・有給休暇のルール
- 飲み会とおみやげ
- 服装と身だしなみ
- 困ったときの相談先
会社や業界によって習慣は違います。迷ったときは、同じ職場の先輩や上司に聞くのがいちばん確実です。
1. あいさつと時間の感覚
職場でよく使うあいさつ
日本の職場では、場面ごとに決まったあいさつがあります。まずは次の5つを覚えておくと、毎日のやりとりで困りません。
| 場面 | あいさつ | ポイント |
|---|---|---|
| 朝、出社したとき | おはようございます | 昼から出勤しても、その日はじめて会うときに使う職場もある |
| 社内の人と会ったとき・社内メールの書き出し | お疲れさまです | 社外の人には「お世話になっております」を使う |
| 先に帰るとき | お先に失礼します | まだ仕事をしている人に声をかける |
| 人が先に帰るとき | お疲れさまでした | 帰る人への返事 |
| 外出するとき・戻ったとき | 行ってまいります/ただいま戻りました | 職場によっては使わないこともある |
社外の人へのあいさつや、メール・電話での言い方は、日本語ビジネスメール・電話ガイド2026:外国人が職場で使えるテンプレート集で例文つきで紹介しています。
Japanese Language
日本語ビジネスメール・電話ガイド2026:外国人が職場で使えるテンプレート集
日本語のビジネスメールと電話対応を、例文つきでやさしく解説します。件名・宛名・CCの基本、弊社と御社の使い分け、依頼・返信・お礼・謝罪などのテンプレート8本、電話の受け方と取り次ぎ方、聞き取れないときの聞き返し方、チャットのマナーまでまとめ…
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時間を守る
会議や打ち合わせには、始まる時間より少し前に着いて、準備をしておくのが基本です。始業時間も「その時間に席に着けばよい」のではなく、「その時間から仕事を始められるようにしておく」と考える職場があります。
遅れそうなときは、わかった時点ですぐに連絡しましょう。電車の遅れなら、駅で「遅延証明書(ちえんしょうめいしょ)」をもらえることがあります。遅刻の扱いは会社によって違うので、入社のときに確認しておくと安心です。
2. 報連相(ほうれんそう)
報連相は、報告・連絡・相談の3つをまとめた言葉です。上司や同僚への報告・連絡・相談のことで、企業活動を効率よく進めるために欠かせないものとされています。
(参照:コトバンク「報連相」)
| 意味 | 例 | |
|---|---|---|
| 報告 | 頼まれた仕事の結果や進み具合を伝える | 「〇〇の資料、できあがりました」 |
| 連絡 | 決まったことや予定の変更を、関係する人に知らせる | 「明日の会議は15時に変わりました」 |
| 相談 | 迷ったときや問題が起きたときに、意見を聞く | 「〇〇の件で、少しご相談してもよろしいですか」 |
報連相で大切なのは、早めに伝えることです。特に、ミスや遅れのような悪い知らせほど早く伝えると、まわりも対応を考える時間ができます。「途中ですが、今ここまで進んでいます」と、終わる前に進み具合を伝えるのも報告の一つです。
どのくらいの頻度で報告するかは、上司によって違います。最初に「どのタイミングで報告すればよいですか」と聞いておくと、すれ違いを防げます。
3. 名刺交換と席次
名刺交換の基本
取引先と初めて会うときなど、名刺(めいし)を交換する場面があります。作法は会社によって少しずつ違いますが、たとえば次のような流れがあります。
渡すとき
- 立って、相手が読める向きにして名刺を持つ
- 会社名と名前を名乗りながら差し出す(例:「〇〇株式会社の△△と申します」)
受け取るとき
- 両手で受け取る
- 名前と会社名を確認する。読み方がわからなければ、その場で聞いてよい
- 打ち合わせの間は、机の上に置いておく
- 終わったら名刺入れにしまう。折ったり、書きこんだりはその場ではしない
どちらから先に渡すか、複数の人とどの順番で交換するかは、一緒にいる上司や先輩の動きに合わせれば大丈夫です。
入社するときに会社が名刺を作ってくれることもあります。名刺入れは、入社前に一つ用意しておくと安心です。
先輩・後輩
「先輩(せんぱい)」は、年齢や地位、経験が自分より上の人や、同じ学校や勤め先に先に入った人を指す言葉です。職場では、自分より先に入社した人を先輩と呼ぶこともあります。
(参照:コトバンク「先輩」)
わからないことは、まず身近な先輩に聞くとよいでしょう。自分に後輩ができたら、今度は教える側になります。
席次(上座と下座)
会議室や会食の席には、座る位置の順番があります。
- 上座(かみざ):いちばん上位の席。入り口から遠い席や、床の間(とこのま)を背にした席とされる
- 下座(しもざ):目下の人が座る席。末席
お客さんや役職が上の人に上座をすすめ、自分は入り口に近い席に座るのが基本です。会議室に入ったら、自分から奥の席に座らず、案内を待つか、まわりの人に合わせましょう。
4. 言葉づかいと遠回しな言い方
敬語は「です・ます」から
職場では敬語(けいご)を使います。敬語は、従来は尊敬語・謙譲語・丁寧語の3種類と説明されてきました。文化審議会の答申「敬語の指針」(2007年)では、尊敬語、謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ(丁重語)、丁寧語、美化語の5種類に分けて説明しています。
(参照:コトバンク「敬語」)
最初から全部を使い分けるのは大変です。まずは「です・ます」の丁寧語で話すことを意識しましょう。上司や取引先に友だちと同じ話し方をするより、ずっと印象がよくなります。そのうえで、「申します」「いたします」「いらっしゃいます」など、よく使う言葉から少しずつ覚えていけば大丈夫です。
遠回しな言い方
日本の職場では、はっきり「できません」と言わずに、やわらかく伝えることがあります。次のような言い方は、断りや反対の意味で使われることもあります。
| 言い方 | 意味していることがあるもの |
|---|---|
| 「ちょっと難しいですね」 | 今の条件では引き受けにくい |
| 「検討します」 | すぐには決められない。断りの場合もある |
| 「前向きに考えます」 | 前向きだが、まだ決まっていない |
ただし、言葉どおりの意味で使われることもあります。どちらかわからないときは、「難しいのは、どの点でしょうか」「いつごろお返事をいただけますか」と、やわらかく確認してかまいません。あいまいなまま進めるより、確認したほうが誤解を防げます。
「空気を読む」という言葉もよく聞きます。その場の雰囲気から状況を考えて、自分が何をすべきか、すべきでないかを判断することです。
(参照:コトバンク「空気を読む」)
雰囲気を読むのが難しいときは、無理に察しようとせず、言葉で確認すればよいのです。
5. 根回しと稟議
根回し(ねまわし)
根回しは、交渉や会議などで、ものごとをうまく進めるために、前もって手を打っておくことです。
(参照:コトバンク「根回し」)
職場では、たとえば会議で新しい提案をする前に、関係する人に個別に説明して、意見を聞いておくことを指します。
- 提案の内容を、関係する人に先に説明する
- 心配な点や意見を聞いて、提案に反映する
- 会議では、整えた提案を出す
会議でいきなり提案すると、聞いた人が「初めて聞いた」と感じて、話が進みにくくなることがあります。大きな提案ほど、先に上司に相談してから進めるとスムーズです。
稟議(りんぎ)
稟議は、担当者が案を作って関係者に回し、承認をもらう仕組みです。会議を開く手間を省くために使われます。そのための書類を「稟議書(りんぎしょ)」といいます。
(参照:コトバンク「稟議」)
備品を買う、外部の会社に仕事を頼む、出張に行くといったときに、稟議が必要になる会社があります。紙に押印して回す会社も、システムで承認する会社もあります。何人もの承認が必要なこともあるので、急ぎの案件は早めに準備を始めましょう。差し戻されないように、目的・金額・期限をはっきり書くのがポイントです。
6. 労働時間・残業・有給休暇のルール
ここからは、職場の習慣ではなく、法律で決まっているルールです。
労働時間と休憩
会社は原則として、1日8時間・1週40時間を超えて働かせてはいけません。休憩は、労働時間が6時間を超えるときは45分以上、8時間を超えるときは1時間以上与えることになっています。
(参照:厚生労働省「労働時間・休日」)
残業の上限
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできません。大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されています。
(参照:厚生労働省「時間外労働の上限規制 | 働き方改革特設サイト」)
「まわりが残っているから帰りにくい」と感じることもあるかもしれません。残業を指示されていなければ、自分の仕事が終わったら「お先に失礼します」とあいさつして帰ってかまいません。
会社が法定の労働時間を超えて残業をさせるには、働く人の過半数でつくる労働組合か、働く人の過半数を代表する人との間で「36協定(さぶろくきょうてい)」を結び、行政官庁に届け出る必要があります。36協定を結んで届け出ている会社では、法定の労働時間を超える残業が認められます。体調や家庭の事情で残業が難しいときは、理由を伝えて上司に相談しましょう。
(参照:厚生労働省「労働時間・休日」)
有給休暇(ゆうきゅうきゅうか)
入社から6か月続けて働き、全労働日の8割以上出勤すると、原則として10日の年次有給休暇がもらえます。2019年4月からは、年10日以上の有給休暇が与えられる人には、そのうち年5日を取らせることが会社の義務になりました。
(参照:厚生労働省「Ⅰ.休暇をとることの重要性 | 年次有給休暇取得促進特設サイト」)
休みを取るときは、早めに上司に伝えて、仕事の引き継ぎをしておくとスムーズです。一時帰国などで長く休みたいときは、特に早めに相談しましょう。
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7. 飲み会と贈り物
飲み会は参加するか自分で決めてよい
歓迎会や忘年会など、職場の人と食事やお酒を楽しむ「飲み会(のみかい)」があります。仕事の場とは違う話ができる機会です。業務として参加を指示されていなければ、参加するかどうかは自分で決めてかまいません。歓迎会などを勤務時間として扱う会社もあるので、迷ったら確認しましょう。
春のお花見や歓迎会を開く企業は、コロナ禍の前より減っています。東京商工リサーチの調査(2025年4月、5,628社が回答)では、春のお花見・歓迎会・懇親会を開く企業は23.8%でした。コロナ前は51.8%でした。開く企業のうち、お花見や歓迎会・懇親会を労働時間に含む企業は18.5%でした。
(参照:東京商工リサーチ「『お花見、歓迎会』開催は、企業の23.8% コロナ禍後で最低、かつての慣習戻らず」)
参加するときは、次のことを覚えておくと安心です。
- お酒を飲まなくても大丈夫。ウーロン茶やソフトドリンクを頼めばよい
- 宗教や体質、健康上の理由で食べられないものがあれば、幹事に先に伝えておく
- 都合が悪いときは「ありがとうございます。今回は都合がつかないので、また誘ってください」と断れば十分
- お酒を無理に飲ませようとすることは、アルコールハラスメント(アルハラ)と呼ばれる。飲めない、飲みたくないときは、はっきり断ってよい
(参照:コトバンク「アルコールハラスメント」)
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はじめての居酒屋体験 お通し・乾杯・注文、当日困らないために知っておくこと
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おみやげ
旅行や一時帰国から戻ったとき、職場におみやげを配る習慣がある職場もあります。個包装のお菓子など、分けやすいものが選ばれます。くわしくは、職場で一目置かれる!日本のおみやげ・贈り物文化の正解とマナーを読んでみてください。
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8. 服装と身だしなみ
服装のルールは会社によって大きく違います。スーツの会社もあれば、私服でよい会社もあります。入社前に「服装の決まりはありますか」と聞いておくと安心です。
迷ったときは、次のことを意識しましょう。
- 最初の数日は、きれいめの服装(オフィスカジュアル)にしておき、まわりの人に合わせて調整する
- 取引先と会う日は、ふだんより改まった服装にする
- 清潔感を大切にする。しわや汚れのない服、整えた髪
- 香水は控えめにする
夏は「クールビズ」で軽装になる職場もあります。クールビズは、冷房に頼りすぎずに夏を快適に過ごすために、2005年度から政府が呼びかけている取り組みです。気温や仕事の内容に合わせて、各自の判断で軽装にします。環境省は、2026年は本省(東京)で5月1日から9月30日まで集中的に実施すると発表しました。
(参照:環境省「令和8年度クールビズについて~デコ活で働き方を快適に~」)
ネクタイやジャケットをいつから外してよいかは職場によって違うので、まわりに確認しましょう。
9. 困ったときの相談先
職場の習慣に合わせることと、理不尽な扱いをがまんすることは違います。パワーハラスメント(パワハラ)は、次の3つをすべて満たすものとされています。
- 立場が上であることなどを背景にした言動
- 業務上必要で相当な範囲を超えている
- 働く人の就業環境が害される
(参照:厚生労働省「パワーハラスメントとは | あかるい職場応援団」)
まずは信頼できる上司や、会社の相談窓口に相談しましょう。社内で相談しにくいときは、次の窓口を使えます。
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| 総合労働相談コーナー | いじめ・嫌がらせ、パワハラ、解雇など、あらゆる労働問題の相談を受け付けている。予約不要・無料 |
| 外国人労働者向け相談ダイヤル | 労働条件について、英語・中国語・ベトナム語・ネパール語など13言語で電話相談ができる。受付は10時〜15時(12時〜13時を除く)。言語によって受付の曜日が違う。0570から始まる番号のため、通話料がかかる |
(参照:厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」 / 厚生労働省「相談機関のご紹介 | 確かめよう労働条件」)
早見表
| 場面 | すること |
|---|---|
| 朝、出社したとき | 「おはようございます」とあいさつする |
| 先に帰るとき | 「お先に失礼します」と声をかける |
| 仕事の途中 | 進み具合を報告する。悪い知らせほど早く |
| 名刺を受け取るとき | 両手で受け取り、名前を確認して、机の上に置く |
| 会議室に入るとき | 案内を待つ。奥の席は上座 |
| 「検討します」と言われたとき | わからなければ、返事の時期をやわらかく確認する |
| 大きな提案をする前 | 関係する人に先に説明して、意見を聞く |
| 飲み会に誘われたとき | 業務としての指示でなければ、参加するか自分で決めてよい。飲まなくてもよい |
| 困ったとき | 上司や会社の窓口、総合労働相談コーナーに相談する |
FAQ(よくある質問)
Q: 日本のビジネスマナーを、全部完璧に守らないといけませんか?
A: 完璧でなくても大丈夫です。あいさつ、時間を守ること、報連相など、毎日の基本から身につけていけば十分です。わからないことは、先輩や上司に聞いてかまいません。
Q: 敬語がうまく使えません。どうすればいいですか?
A: まずは「です・ます」の丁寧語で話しましょう。そのうえで、「申します」「いたします」など、職場でよく聞く言葉から少しずつ覚えていけば大丈夫です。メールや電話の決まった言い方は、テンプレートを使うと楽になります。
Q: 飲み会は断ってもいいですか?
A: 業務として参加を指示されていなければ、参加するかどうかは自分で決めてかまいません。歓迎会などを勤務時間として扱う会社もあるので、迷ったら確認しましょう。参加するときも、お酒を飲む必要はありません。お酒を無理に飲ませることはアルコールハラスメントにあたります。
Q: 残業を断ってもいいですか?
A: 残業を指示されていなければ、自分の仕事が終わったら帰ってかまいません。会社が36協定を結んで行政官庁に届け出ていれば、法定の労働時間を超える残業が認められるので、残業を指示されることがあります。断れるかどうかは、雇用契約や就業規則の決まりによります。その場合も、残業の上限は原則として月45時間・年360時間です。体調や家庭の事情で難しいときは、理由を伝えて上司に相談しましょう。
Q: 有給休暇はいつから使えますか?
A: 原則として、入社から6か月続けて働き、全労働日の8割以上出勤すると、10日の有給休暇がもらえます。くわしい付与のタイミングは、会社の就業規則で確認しましょう。
Q: 職場の人間関係で困ったら、どこに相談すればいいですか?
A: まずは信頼できる上司や会社の相談窓口に相談しましょう。社内で相談しにくいときは、厚生労働省の総合労働相談コーナーや、外国語で相談できる外国人労働者向け相談ダイヤルを使えます。
Key Takeaways(まとめ)
- ✅ あいさつと時間を守る:「おはようございます」「お先に失礼します」と、時間の少し前の準備から
- ✅ 報連相は早めに:特に悪い知らせほど早く伝える
- ✅ 名刺と席次は、まわりに合わせる:両手で受け取り、奥の席は上座
- ✅ わからない言い方は確認してよい:遠回しな表現は、やわらかく聞き返す
- ✅ 法律のルールも知っておく:残業の上限、有給休暇、ハラスメントの相談先
職場の習慣は、知っていると人間関係がスムーズになります。一方で、労働時間や休暇、ハラスメントのように、法律で守られていることもあります。合わせるところと、相談してよいところを分けて考えれば、日本の職場でも自分らしく働けます。