海外ルーツの子が日本の学校で日本語についていけない時:『日本語指導が必要な児童』制度と家庭サポート (2026)

Published: 2026年5月12日
|
Updated: 2026年5月14日
海外ルーツの子が日本の学校で日本語についていけない時:『日本語指導が必要な児童』制度と家庭サポート (2026)
Family & Life

Last Updated: May 12, 2026
Reading Time: 14 min read

Introduction(導入)

連絡帳の漢字が読めない、授業参観で先生の話す日本語が速くて子どもがついていけていない様子だった、家ではよく喋るのに学校ではほとんど話さない。家庭で母語を使うわたしたちにとって、こうした不安は珍しくありません。

文科省の令和5年度調査では、公立校に通う「日本語指導が必要な児童生徒」は 6万9千人 を超え、うち 約24%が学校から何の指導も受けていない という現実があります。制度はあるのに、知られていないだけで使われていません。

この記事では「日本語指導が必要な児童生徒」制度の使い方、就学相談で聞くべきこと、家庭での日本語キャッチアップと母語の維持を、今日から動ける単位で整理します。インター校か公立校かの選択は インター校と公立校の比較 を参照してください。

(参照:文化庁「外国人児童生徒等教育の現状と課題」第一生命経済研究所「公立学校に増える日本語で学べない子どもたち」

まとめ(TL;DR)

  • 公立校に通う日本語指導が必要な子は6万9千人超、うち4分の1は支援ゼロ
  • 「日本語指導が必要な児童生徒」は文科省の公式カテゴリで、認定されれば「特別の教育課程」で取り出し授業が受けられる
  • 日常会話は1〜2年で身につくが、教科の日本語(学習言語)は5〜7年かかる
  • 就学相談で「指導員配置」「取り出し時間」「母語支援員」の3点を必ず確認
  • 学校に任せきりにせず、家庭では母語を意識的に残す。母語の後退は2〜3年で進む

免責事項: 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の自治体・学校の対応を保証するものではありません。制度運用は自治体・学校により差があるため、最終的にはお住まいの市区町村教育委員会と通学校に直接確認してください。本記事の情報は2026年5月時点のものです。

データで見る、日本の学校の今のリアル

公立校に在籍する「日本語指導が必要な児童生徒」は 69,123人(外国籍 57,718人、日本国籍 11,405人、令和5年度)。同じ調査では、必要な小・中学生 50,759人のうち10,400人(約24%)が誰からも日本語指導を受けていない と報告されています。先生の配置がない、保護者が制度を知らない、申請を出していない、理由はさまざまです。

愛知・神奈川・東京・大阪などの「集住地域」は自治体が独自に日本語指導員・母語支援員を配置していますが、人口の少ない地域では対象児童が1〜2人で専任指導者がいないこともあります。引っ越し先に余地があるなら、自治体の支援体制を事前に調べる価値があります。

💡 Key Point

「日本語指導が必要な子」は文科省が公式に把握しているカテゴリで、制度上の支援メニューが用意されています。まずは「うちの子もこのカテゴリに該当する」と学校に伝えるところから始まります。

(参照:文化庁「外国人児童生徒等教育の現状と課題」令和6年第一生命経済研究所「公立学校に増える日本語で学べない子どもたち」2024年

「日本語指導が必要な児童生徒」とは何か

文科省は対象を「日本語で日常会話が十分にできない子」または「日常会話はできるが、学年相当の学習言語が不足して授業についていけない子」と定義しています。「友達と遊べる程度に話せれば該当しない」のではなく、教科書が読めない・先生の指示が一部しか理解できない状態でも対象です。

具体的には次のような子が含まれます。

  • 海外で生まれ育ち、来日して間もない子
  • 日本生まれだが家庭の主言語が日本語以外で、就学時に日本語語彙が同年齢平均より少ない子
  • 日本国籍で日常会話はできるが、漢字・抽象語彙でつまずいている子
  • 海外駐在から帰国し、現地校で現地語で学んでいた子(帰国生)

最終判定は学校と教育委員会ですが、入り口は 保護者または担任からの申し出 です。心当たりがあれば自分から伝えるのが早道。

判定には文科省が開発した DLA(対話型日本語アセスメント、Dialogic Language Assessment) が使われます。「話す・読む・書く・聴く」の4技能を1対1の対話形式で測るテストで、1セッション45〜50分、複数日に分けて行うのが基本。「日常会話はできるけれど学校の勉強で困っている」レベルの子のことばの力を可視化することを目的としており、結果に応じて取り出し授業の内容や時間数が組み立てられます。

(参照:文部科学省「日本語指導の対象となる児童生徒」文部科学省「外国人児童生徒等のことばの力のアセスメント(DLA)」

「特別の教育課程」と取り出し授業

該当が認められると、「特別の教育課程」という枠で日本語指導が受けられます。通常授業の一部時間に替えて、別教室で日本語指導を受けることを正式に認める枠組みです。

指導形態 説明
取り出し授業 通常の教室から離れ、日本語指導員と1対1〜少人数で指導を受ける
入り込み指導 通常の教室に補助の先生が入り、当該児童を脇で支援する
放課後・補習 授業時間外に追加で日本語指導を行う

学校により組み合わせは異なるため、面談で「週何時間、どの形態で受けられますか」と確認します。「特別の教育課程」中も子どもは在籍学級の正規メンバーで、通知表も通常通り。日本語の習得状況に応じて評価方法を柔軟に調整できる制度です。

外国籍の子は法律上、日本の義務教育の対象外ですが、日本人と同じ手続きで公立校に通学する権利が保障されており、就学を申し出れば原則受け入れられます。保護者側からの就学申し出が必要、という点だけ押さえてください。

(参照:文部科学省「『特別の教育課程』による日本語指導の位置付け」文部科学省「外国人の子等の就学に関する手続について」

就学相談・初回面談で必ず聞くべきこと

入学前や転入時の面談で何を聞くかで、その後の支援の質が大きく変わります。

教育委員会の窓口で確認すること(市区町村の「学事課」「就学相談係」など)

  • 通学指定校に 日本語指導員は配置されているか
  • いない場合、巡回指導員が来てくれるか、別の学校に通えるか
  • 母語支援員(通訳) の派遣はあるか、何時間まで使えるか
  • 教育委員会が 多言語の入学案内 を用意しているか
  • DLA(対話型日本語アセスメント) など、日本語力を可視化する測定を入学前に受けられるか

通学校との初回面談で確認すること

  • 担任の先生は 海外ルーツの子の対応経験 があるか
  • 「特別の教育課程」での指導を 週何時間、どの教科の時間に行うか
  • 連絡帳の翻訳 や、保護者面談での 通訳 はどう手配するか
  • 給食のアレルギー・宗教上の食事制限 への対応
  • 災害時の連絡 は何語で、緊急時に多言語連絡が来るか
✅ Tip

質問項目をスマホのメモか紙に書き出して持参し、その場で先生の回答もメモする。後で家族と共有しやすく、複数の学校を比較するときにも便利です。

日本語の準備が極端に不足している場合、文科省は 就学義務の延期 も認めています。日本語学習施設で準備をしてから入学する選択も制度上は可能ですが、現場では「まず入って取り出し授業で追いつく」運用の方が一般的です。

(参照:文部科学省「外国人の子等の就学に関する手続について」

学校との日々のコミュニケーション

連絡帳と配布物: 日本の小学校は紙のお便りが大量に飛んできます。翻訳アプリのカメラ翻訳(Google翻訳、DeepLなど)を常用し、重要書類は担任に「ここの意味を教えてください」と直接質問する習慣を。自治体LINE公式アカウントの翻訳機能や、同学年の日本語ネイティブ保護者との相互確認も役立ちます。

保護者面談の通訳: 必要なら面談の 1〜2週間前に学校に依頼 します。自治体派遣の通訳(無料、自治体による)、学校手配の通訳ボランティア、保護者が連れていく第三者(事前許可必須)が主な選択肢。子ども本人に通訳させるのは避けてください。家庭と学校の双方の負担を子どもが背負うことになります。

PTA・連絡網: 役員までやる必要はなく、LINEグループや学校のメール配信に登録できれば十分。連絡網に入っているだけで情報量は大きく変わります。

家庭でできる日本語キャッチアップ

学校での取り出し授業は週に数時間(多い自治体でも週5〜8時間程度)が一般的で、それだけで教科書レベルの日本語まで引き上げるのは難しいのが現実です。家庭で取れる具体的なサポートは大きく4つ。

  • 毎日10〜15分の音読(教科書、絵本、子ども向けニュース)
  • 学年配当漢字の書き取り(その日学校で習った漢字を1日5字、書く+意味確認)
  • 算数・理科の文章題を一緒に読む(子どもに音読してもらい、知らない言葉をその場で説明)
  • 動画教材の母語字幕活用(NHK for School、Khan Academy など、難しい概念を母語で先に理解させてから日本語で復習)

これらを毎日30分前後、習慣として続けるだけで、学校の取り出し授業の効果は大きく変わります。順番にもう少し詳しく見ていきます。

「日常会話」と「学習の日本語」は別物

カナダの言語学者ジム・カミンズが提唱した区別が、家庭サポートの土台になります。

  • BICS(生活言語): 友達と遊ぶ、買い物など日常で使う日本語。1〜2年で身につく
  • CALP(学習言語): 教科書を読む、抽象概念を理解する、作文を書く。5〜7年かかる

学校で活発に喋っていても、教科書が読めるとは限りません。たとえば、休み時間に友達と楽しそうに話している1〜2年生の子が、4年生になって「割合」「平均」「資源」「気候」など教科書の言葉が増えたとたんに、成績が一気に落ちることがあります。表面的な会話力は問題ないように見えるので、先生や親が「家でちゃんと勉強していないだけ」「やる気がない」と誤解しやすく、本当に必要な日本語サポートが入りにくくなる、というつまずきパターンです。

7歳の壁と10歳の壁(学習が急に難しくなる時期)

  • 7歳前後(小1〜2年): ひらがな・カタカナ習得後、漢字が一気に増える(1年生で80字、2年生で160字)
  • 10歳前後(小4): 教科書が抽象的になり、「面積」「平均」「気候」など 生活で使わない概念語 が増え、算数の文章題でつまずく子が急増

漢字練習量を増やす、文章題を一緒に音読する、など具体的アクションで伴走します。

家庭での具体的なメニュー

  • 音読: 教科書を毎日5〜10分。漢字の読み方と文章のリズムを覚える
  • 漢字練習: 学年配当漢字を書き取り+意味の確認で繰り返す
  • NHK for School: 教科ごとの動画教材を無料公開。母語字幕の併用で理解が深まる
  • 地域の学習支援教室: 自治体やNPO運営の無料宿題サポート。「○○市 外国人 学習支援」で検索

親の日本語が完璧である必要はありません。子どもにとって最大のモデルは 親が学び続けている姿 です。一緒に音読する、一緒に漢字練習する、それだけで子どもの取り組みが変わります。

子どもに母語を残す:家庭の言葉の育て方

ここで言う「母語」は、家庭で家族と話している言葉のことです(英語、中国語、ベトナム語、ポルトガル語など)。教育の世界では 継承語(けいしょうご) とも呼ばれ、「親から子へ引き継がれる、家族の言葉」を意味します。

日本に住むと母語がどう消えていくか

公立校に毎日通うと、起きている時間の大半が日本語環境になります。家庭でも「日本語が遅れているから家でも日本語を使おう」と切り替えてしまうと、母語を聞く時間がほぼゼロに。入学から2〜3年で母語の語彙が同年齢の母国の子の半分以下まで落ちる ケースは珍しくなく、後で取り戻すには相当の労力がかかります。

母語を残しておいて良かった、と言える4つの場面

  • 将来の進路の選択肢: バイリンガル人材としてのキャリア、母国の大学進学、二か国で働ける仕事の幅
  • 教科の勉強の土台になる: 母語で「割合」「気候」など抽象的な概念を理解できる子は、日本語の学習言語(CALP)も伸びやすい(カミンズの「相互依存仮説」)
  • 祖父母・親族との関係: 言葉が通じる祖父母と話せる時間は、子どもの情緒の安定に直結
  • アイデンティティ: 思春期に「自分は何者か」と考えるとき、母語と母文化の経験が大きな支えになる

家庭で取れる2つの戦略

OPOL(One Parent, One Language、「親一人につき一言語」): 両親で話す言語を分担。「母は英語、父は日本語」のように、誰が誰に何語で話すかを固定します。子どもが「この人とは○○語」と整理しやすい一方、電車の中など公共の場でも母語を貫くには、ある程度の意思が必要です。

ML@H(Minority Language at Home、「家の中は少数派の言語」): 家の中では母語のみ、外では日本語、と環境を分ける方法。両親とも同じ母語を話す家庭で取られることが多く、母語に触れる時間を最大化できます。

どちらを選ぶにせよ、親が疲れていても、自分の母語で話し続けられるか が続けるためのカギです。

母語を続けるための便利なリソース

  • 継承語クラス・補習校(母語の学校): 英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語などで日本各地に存在。週1〜2回、土曜日の運営が多い。「○○語 補習校 [住んでいる地域名]」で検索
  • 母国大使館・文化センター: 教材や図書の貸し出し、文化イベントを開催している国が多い
  • オンライン家庭教師: 母国の大学生・現役教師にオンラインで指導してもらう方法
  • 動画・絵本のサブスク: Netflix、YouTube Kids、Epic! などを母語設定で
  • **CLAIR 多言語生活情報「子育て編」**(自治体国際化協会): 13言語で自治体ごとの子育てサポート情報を提供

困ったときの相談先

家庭と学校だけで抱え込まないルートを確保しておきます。

公的窓口: 市区町村教育委員会の学事課・国際交流課(自治体ごとに窓口名と連絡先が異なるため、お住まいの市区町村HPで「外国人 就学」と検索)/東京都教育委員会「外国人就学」ページ(24言語対応の日本語指導テキスト「たのしいがっこう」公開)/文部科学省「かすたねっと」(多言語学校文書の検索)/文部科学省「クラリネット」(指導者向けポータル)

NPO・市民団体: 認定NPO法人 多文化共生センター東京(高校進学支援、たぶんかフリースクール荒川校・杉並校)/YSCグローバル・スクール(東京都福生市・足立区、オンライン対応)/NPO法人ABCジャパン(横浜市鶴見区、ポルトガル語・スペイン語圏家庭向けフリースクール)/各都市の国際交流協会(無料日本語教室、保護者向け相談会)

メンタルヘルス・発達相談: TELL Japan(英語ほか多言語でカウンセリング・発達相談)/児童相談所(各自治体、多言語通訳対応あり、共通ダイヤル 189)/大学病院の小児発達外来(大都市圏では英語対応も増加)

「バイリンガル環境のせいで言語が遅れている」と安易に診断されたら セカンドオピニオン を求めて構いません。バイリンガル教育そのものが言語発達の遅延を引き起こすという科学的根拠は確立していません。

FAQ(よくある質問)

Q: 入学時点でほとんど日本語が話せません。普通学級でついていけますか?

A: 「日本語指導が必要な児童生徒」と認定されれば「特別の教育課程」で取り出し授業が受けられ、その時間は普通学級から離れて日本語に集中できます。ゼロから始める子も少なくありません。入学前に就学相談で「日本語ゼロでも受け入れ可能か」「どんな支援があるか」を確認してください。

Q: 子どもが家でも日本語ばかり話したがります。母語を諦めるべき?

A: 諦める必要はありません。「子の返事が日本語でも、親は母語で話し続ける」を続けると母語インプットは蓄積されます。学校で長時間日本語に触れる環境なので、家庭で意識的に母語を使わないと母語側は急速に弱くなります。インプット(聞き続けること)さえ維持されれば、後年にアウトプット(自分から話すこと)が復活することがよくあります。

Q: 親の日本語が苦手で、学校とのやり取りが不安です。

A: 多くの自治体に通訳派遣制度があり、面談で依頼できます。連絡帳は カメラ翻訳アプリ で実用十分。親が学校に関わろうとしている姿勢自体が、子どもの安心感につながります。

Q: 引っ越し先で日本語指導の充実した自治体を選べますか?

A: 選べます。「日本語指導が必要な児童生徒」の数が多い自治体ほど、専任指導員や母語支援員の配置が手厚い傾向。文化庁「外国人児童生徒等教育の現状と課題」資料に自治体別データが掲載されており、引っ越し検討時の参考になります。

Q: 家族滞在ビザの子も同じ支援を受けられますか?

A: 在留資格に関わらず、住民登録があれば公立校に通学でき、「日本語指導が必要な児童生徒」制度も対象です。家族滞在ビザの就労時間や更新は 家族滞在ビザの完全ガイド を参照してください。

Key Takeaways(まとめ)

  • 「日本語指導が必要な児童生徒」は公式制度。該当を疑ったら学校・教育委員会に自分から申し出る
  • 就学相談で具体的な質問リストを持参。指導員配置、取り出し時間、通訳手配の3点は必ず確認
  • BICSとCALPは別物。日常会話ができても学習言語は5〜7年かかる
  • 家庭で母語を残す意思を持つ。母語のインプットを止めると2〜3年で大きく後退
  • 困ったらNPO・自治体・TELL Japanに早めに相談。家族だけで抱え込まない

制度は用意されているのに、知られていないだけで使われていない支援が多くあります。最初の一歩は、通学校に「日本語指導の体制を教えてください」と聞くところから始まります。